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「聖ドミニコの生涯」シスター武田教子

「聖ドミニコの生涯」 シスター武田教子 「デンマークへの旅」1

18 9 朝焼け


 1203年5月、カスチリア王のアルフォンソ八世は、王妃と王子を伴って、オスマのすぐそばの町まで来た。王子はこの時十三才で、王のただひとりの息子、王位継承者であった。
 王の一行は、5月13日、ソリヤの一女子修道院の創立を認可して引き上げる。しかし、ただそれだけのために王の一行がここまで来たとは考えられない。
 ドミニコの最も正確な伝記作家であり、ドミニコの後を継いで会の二代目総長をとなったジョルダン・ド・サクスは、その時、王は、オスマの司教ディエゴ(マルチノ司教の没後、ディエゴが後を継いでいた)に、自分の息子の妃として、デンマークの貴族の姫君のひとりを迎えるための使者となるよう、依頼に来たのだという。事実、司教は間もなくデンマークに向けて旅だつ。司教はこの旅行にドミニコを伴う。
 当時の複雑な政治事情にはここでは触れない。しかし、司教座参事会員として、日々聖書に親しみ、典礼生活にいそしみ、祈りと勉学に余念のなかったドミニコの生活を突然変えたこのできごとが、次第にドミニコにその使命を示していくことになる。
 この長途の旅行は、なかなかきびしいものであった。黒い合羽に身を包み、馬に乗ったドミニコは、同じく馬上の司教の後に続き、通訳、道案内、をする商人、そして多分、王がつけてくれた数人の護衛の騎士たちと共に北上したことであろう。
 一行は、恐らく、旧ローマ街道を通って、ソリヤ、サラゴッサ、ハカ、ソンポール、オルロン、モルラアス、と進み、ツールーズに入ったに違いない。
 ピレネー山脈を越えてフランス領に入った途端、ディエゴ司教とドミニコは、それまで噂に聞くだけであった謬説が蔓延しているありさまを目のあたりにした。謬説にはいろいろあったが、中でもカタル派と呼ばれるものが、非常な勢いで広がっていた。ツールーズ伯爵領は、特にそれがひどかった。
 南仏のカタル派は、強力な組織を持ち、個々の説教者はつつましい生活をし、菜食主義で、道徳的にも申し分なかったので、人びとの尊敬を集め、多くの聴衆をひきつけていた。
一行が、ツールーズで宿をとったとき、計らずも、ドミニコは、カタル派と対決することになる。ツールーズでの宿主自身が熱心なカタル派であったのだ。
 一見、キリスト者のようにみえるカタル派は、その実、二元論で、霊と物質とを対立させ、福音書の神を善い神とし、旧約聖書の神を悪い神として対立させる。そして、善である霊は、きびしい修練によって、悪である物質(体)から解放され、最後に死によって自由になるが、完全に開放されない場合は再び物質と合体し、動物とることもあり得るという。このように、カタル派は、外見上は福音書を尊び、キリスト信仰を装っているが、実質は全く異なる。彼らの説によれば、善い神であるキリストは、悪である物質と合体することはできないので、キリストの体はみせかけであり、同じくその死もみせかけである。
それなら、キリストは、人と神とを結ぶかたではなく、救い主ではないということになる。勿論復活はない。しかも、物質である体を再生していく結婚、出産は悪である。体を保つために食事をすることも悪である・・・しかしこの悪を避けることはできないとなれば、これは道徳的頽廃へとつながる。その上、キリスト教とカタル派との間の争いによって、人びとは、暴力、破壊、飢、貧困にさらされていた。
 ドミニコは、その宿主がカタル派と知ると夜を徹して彼と語り明かす。どのように語り合ったのであろうか。ひとつだけ言えることは、ドミニコは、決して一方的にきめつけるような話し方はしなかったということである。
 ドミニコは、相手を打ち負かそうとしてではなく、自分が確信するところを相手に伝えようとして話す。熱烈ではあったが、決して威嚇的ではなかった。これは、ドミニコの一貫した姿勢であった。「誤謬を正すのは、真理を説くことによってである。」彼は、宿主にその論の矛盾を示す。あい対立して二つあるようなものは神ではない・・・ドミニコの熱のこもった、心からの論は、遂に宿主の心を動かし、夜が明けそめる頃、宿主はカトリックにたちもどる。
 一睡もしなかったツールーズを発って旅を続けるドミニコの心中は、どのようなものであったろうか。この一夜が、彼の生涯に大きな意味を持ったことは確かである。三年後には、ドミニコは、自分のすべてを賭けて対カタル派の活動をすることになり、十年後には、このツールーズに、ドミニコ会の最初の礎を置くことになるのである。
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聖ドミニコ女子修道会

Author:聖ドミニコ女子修道会
長い歴史があるキリスト教カトリックの女子修道会です。日本では、学校や幼稚園、児童養護施設でキリスト教に基づく教育をしています。また、教会、病院、黙想の家、その他でも<みことば>を伝えています。

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